2番目に君を、愛してる。
語り手は私でないが喉がカラカラになっていた。
「そうして波木さんが消息を眩まし、俺はますます事件の真実を突き止めようと躍起になり、上層部から自宅謹慎を言い渡された。解決した事件をいつまでも追い続ける俺に周囲が呆れていたけれど、隠れて聞き込みを続け、偶然にも他の事件に遭遇して大きなミスを犯した。深手を負い犯人を取り逃がす大失態を犯し、それが謹慎中だと知れれば大問題になる。だから美崎に託して現場から逃げ出したんだ」
「その後は逃げた先で、君に救われた。なっちゃんがポケットに忍ばせるナイフを見て、軽くお説教でもしてやろうと思った。けれど怒るには体力がなく、世話になろうと部屋まで行ったんだ。すぐに帰るつもりだったよ。君が波木秋の妹だと知るまではーー君の心を奪いさえすれば、お兄さんの居場所が突き止められると俺は内心、笑っていた。女子高生の理想の相手になろうと、俺は優しくて時には甘い言動で君を惑わせた。警察手帳は没収されていて見せることはできなかったけれど、君はあまり疑っていなかったよね」
「君のお兄さんが辛い事件に心を傷めて現実から逃げ出したという理由も知らず、君が本当にお兄さんの居場所を知らないとは思いもせず、俺は同居人を演じたんだ。すぐに美崎によって逮捕された犯人が、まだ逃走中であると嘘を吐き、偽りの自分に成りすましたーーまさかこちらが君に囚われるとは思いもせずに」
「いつからなんて分からない。気付いたら君を愛していて、本当にただの同居人でありたいと思った。刑事であると自制心を保ちながら、一方で君の心が欲しいと切望していたよ。早めにけじめをつけるべきだと思った。嫌われてもいいから、なっちゃんに話すべきだと。そんな気持ちも知らずに波木さんが突然現れた。待ち望んでいたことだが、少しも嬉しくなかった。なっちゃんが俺に刃を向けた時、必要なのは兄貴の方だと悟り、距離を置くことにした」
黙って新藤さんの話を聞いていたが、思わず口を挟む。
「新藤さんと兄を天秤にかけたつもりはないです。あの時はなにも考えられなくて、劣勢の兄に加勢しました」
馬乗りになっている新藤さんと、下敷きになっている兄ならば、後者が劣勢に見えるはずだ。
「…君が俺に刃を突き刺した時、君を騙したことへの罪だと思った。それなのに君はお弁当をわざわざ届けてくれて、俺を許そうとするんだ」
甘すぎるよ、そう新藤さんは笑った。