2番目に君を、愛してる。
「…一気に話したけど、聞く方も疲れたよね。ごめんね。なにか質問ある?」
一度にたくさん水を飲み、新藤さんは袖で口を拭った。
それを彼らしからぬ行為だと思ったが、そもそも私は新藤さんのなにを知っていると言うのだ。
今まで見てきた新藤さんは仮の姿だった。
「櫻井さんは今どうされていますか」
「…また心を病んでしまって、入院しているよ」
過去の傷は癒えたが、また新たな傷を作ってしまったのであれば治りは遅いだろう。
「まだ櫻井さんのことが好きですか?」
新藤さんはどうなのだろう。
弱っている時にこそ信頼できる人に傍にいて欲しいはずだ。
「真相を受け入れた今はもう、どんな顔をして彼女と向き合えば良いか分からない。君と出逢ってやっと分かったんだ。愛情よりも、同情と正義感で彼女に接していたんだと。兄貴と付き合った櫻井を恨んでいたけれど、それは櫻井のことを愛しているから許せないというよりも、ただ兄貴を敵視していたからだと思う。昔から兄弟仲が最悪でね」
兄弟でひとつのお菓子の争い奪い合いはごく自然なことなのかもしれないが、大人になってまで意地の張り合いは美しくない。
「でももう兄貴とは、喧嘩できないな…」
新藤さんはやっと聞き取れるほどの小さな声で呟いた。
私に気を遣って特に感情を込めずに事実を説明してくれていたが、その言葉だけはとても弱々しい。お兄さんがどうなってしまったか気がかりであったが、その答えはもう聞かなくても理解できた。
無理矢理に微笑もうとして失敗したかのようなもの寂しい笑みに、掛ける言葉が見つからない。
大切な人を亡くす苦しみを共感することはできても、痛みを分け合うことなんてできやしない。いくら寄り添ったところで新藤さんの哀しみは消えてなんてくれない。
その痛みを知っているからこそ、気安く大丈夫だなんて言葉にできなかった。
「暗い話はここまでにしようか?」
こちらの心境を察した新藤さんは明るく笑った。
そしてゆっくり温もりが近付いた。