大江戸ロミオ&ジュリエット
「……わたくしは、お菜を買うてはならぬ、とは一言も申しておりませぬっ。
どうせ、お菜だけではなく、なにかにつけて北町の実家に泣きついて、使いの者が届けておったのでござりましょう。
たとえそうであろうと、わたくしは見て見ぬ振りをして、なぁんにも申しておりませぬ。
辛抱しておるのは……むしろ、わたくしの方じゃ」
富士は、心外とばかりに抗弁した。
「もしや……そなたが実家の者に、松波の家を悪しざまに罵っていたのであるまいか。
それが伝わって、町家の噂話になったのでござりましょうや」
富士は般若の形相で、志鶴をぎりりっと睨んだ。
息子から吟味される咎人かのような扱いを受けるのは、すべてこの嫁の所為だと思った。