大江戸ロミオ&ジュリエット

「し…しぃちゃんは、さようなことをするお人ではありませぬっ」

(たま)らず、初音が叫んだ。

「さような振る舞いをすれば、実家(さと)の人たちが、しぃちゃんを心配するではありませぬかっ……だから、しぃちゃんは一人きりで辛抱して……こんなに痩せ細っちゃって……」

だが、その声音(こわね)は次第に力を失っていく。
平生(へいぜい)、町家相手に使う町家言葉も混ざる。
大きな目からは、涙がぽたぽた落ちていた。


「……はっちゃん、わたくしのためにありがとう……されども、お願い……泣かないでちょうだいな」

志鶴は布団の中から、初音をねぎらった。

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