大江戸ロミオ&ジュリエット
◇鯔背与力の場◇
「……相分かった」
懐手をした多聞が、きっぱりと告げる。
「初音ちゃん、よう話してくれた。恩に着るぜ」
初音はぐすっと鼻をすすった。
「おめぇさんが話してくれなんだら、わからずじまいで実家に帰すとこだったかもしれねぇな。
……こいつが頑固に口を割りそうにねぇからよ」
多聞が、布団に横たわる志鶴を顎で示した。
……やっぱり、北町に戻されるところだったのだ。
生まれ育った町に一刻も早く帰りたかったはずなのに……あんなに「三年」を待ち望んでいたはずなのに。
なぜか志鶴の心の臓が、きゅっ、と縮こまった。