大江戸ロミオ&ジュリエット
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医師の玄丞とその娘の初音が帰ったあと、多聞は母親の富士に自室での蟄居(ちっきょ)(謹慎)を云い渡し、志鶴に近づくことを禁じた。

強気だった富士は一転して、
『二度と此度(こたび)のようなことはせぬから、どうかそなたの父上のお耳には入れてくれるな』
と泣いて頼んだが、多聞はさような言葉こそ耳に入れなかった。

項垂(うなだ)れた富士は、奉公人に支えられながら自室へ去った。人の()い志鶴は、かような富士を心配そうに見送った。

ゆえに、今、この部屋にいるのは志鶴と多聞の二人きりだ。


「……あの夜、できねぇんだったら、なんでちゃんと云わねぇのよ」

多聞が機嫌を損ねた顔でごちた。
どうやら、志鶴には町家言葉で接することにしたようだ。

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