大江戸ロミオ&ジュリエット
「だからって、突き飛ばすこたぁねぇだろうよ。おかげでおれはおめぇから、すっかり嫌われてるもんだとばっかし思ってたぜ。
今日だって、おめぇが倒れたって聞いて、実家に帰ぇしてゆっくり養生さした方がいいかとも思案したしな」
「も…申し訳ありませぬ」
志鶴は消え入るような声で謝った。
「……あの夜、おめぇの口を吸ってるときにゃ、
滅法気持ちよさげなおめぇの面を拝んでたってのによ」
多聞がいたずら小僧のごとき目で志鶴を見る。
たちまち頬が朱に染まった志鶴は、恥ずかしさのあまり、夜着を引っ張り上げて顔を隠した。
「……ま、おめぇさんの気質なら云えねぇか」
多聞は口元を緩めて微笑んだ。
その笑顔がどれほど甘くてやさしかったかは、無念なことに夜着で隠れた志鶴の瞳には映らないままであった。