大江戸ロミオ&ジュリエット
志鶴の枕元にある縫い物を、多聞が手に取った。
寸法から見て男物の浴衣だ。
「……志鶴」
多聞が初めて妻の名を呼んだ。
びっくりした志鶴が、思わず夜着から目だけを出す。
「こいつぁ……おれのもんかい」
多聞が縫い物に目を落としたまま訊く。
志鶴はこくり、と肯いた。
「なかなかお目通りが叶いませぬゆえ、せめてもと……あっ、旦那さま、お針にお気をつけくださりませ」
身体の具合がすぐれず捗っておらぬため、木綿の布地にはまだ目印の針がたくさん刺してあった。
「旦那さまは実家の兄より大きゅうござりまするゆえ、兄の寸法より一寸半ほど出しておりまするが、仮縫いを終えたら一度羽織ってもらって確かめ……」
志鶴は夜着から身を起こして、縫い物へ手を伸ばそうとしたその刹那。
ぐいっ、と腕を取られて引き寄せられる。
気がつくと布団から出て、多聞の腕の中にすっぽりと包まれていた。