大江戸ロミオ&ジュリエット

「確かに、おれは餓鬼(ガキ)の頃からおめぇんとこの兄貴よかでけぇし、手足も()げぇわな」

多聞はくくっ、と笑って肩を揺らした。
(いだ)かれた志鶴もつられて揺れる。

多聞は昔、剣術道場で佐久間 帯刀(たてわき)と一戦だけ交えたことを思い出した。勝ったのは自分だ。

……そういやぁ、北町の方にえれぇ可愛い子が来てるって騒がれておったな。

兄を応援するために志鶴も見に参っていたのだ。

多聞は、たった今我が身の腕の中に収まっている、成長したその子を見た。

(あい)()かった。
おめぇの頼みなら、いくらでも羽織ってやるさ。けどよ……これ以上、根詰めて無理すんじゃねぇぞ」

腕の中のその子……志鶴を、いたわしげに覗き込む。志鶴を支えるその腕は、まるで壊れ物をそっと抱えるような力具合だった。

……よかった。
縫った浴衣は、旦那さまに着てもらえる。

ほっとした志鶴は、多聞を見上げてふっくらと笑った。多聞に見せた、初めての笑顔だった。

その刹那、多聞の整った顔が急に苦しげな顔になる。

志鶴があっと思う間もなく、多聞の顔が近づいてきた。

そして、互いのくちびるが重なった。

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