大江戸ロミオ&ジュリエット

不意に、志鶴の(せな)と膝の裏に腕をかけた多聞が、立ち上がると同時にふわりと志鶴を抱き上げた。

「だ…旦那さま、危のうござりまする」

志鶴は驚いて、思わず多聞の首の後ろに手を回してしがみつく。

「この家にゃぁ、部屋なんか腐るほどあるってぇのに、よりによっておれの部屋から一番(いっち)遠い、こんな湿気(しけ)った部屋だったとはよ」

そう吐き捨てるように云い放って、そのまま志鶴を横抱きにして、部屋を出て行こうとする。

「こんな辛気()せぇ部屋におめぇを置いとけるか。おれの部屋の隣を、今日からおめぇの部屋にすっからよ。これから連れて行ってやっからな」

多聞は「浮世絵与力」の顔で不敵に笑った。
志鶴を横抱きにしたまま、こともなげに回廊をずんずん歩いて行く。

……月のものも終わったし……ということは、いよいよ……

志鶴の身体(からだ)がきゅっと縮こまる。

心配(しんぺぇ)すんな、志鶴。
こんな細っこいおめぇに手が出せるかってのよ」

志鶴の心をよんだ多聞は、そう云って豪快に笑った。

あからさまな物云いに、志鶴の頬がこの上なく朱に染まる。

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