大江戸ロミオ&ジュリエット
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決して心を荒立てることのない志鶴が、めずらしく腹を立てていた。自室に戻って参っても、多聞とは一言も口をきかぬ。

「……おい、どしたんでぃ。
せっかく、お()っつぁんの戯言(ざれごと)から抜け出せて、おめぇと二人っきりになれたってのによ」

早速、疲れたであろう志鶴を夜具へ寝かし、ついでに我が身もその隣に横たわった多聞が訊く。

志鶴はずっと(せな)を向けている。

「志鶴……こっち向けってぇの」

多聞はぐいっと、志鶴の身体(からだ)を反転させる。

機嫌を損ねて口を尖らせた、可愛い顔がそこにあった。

多聞は思わず抱き寄せ、その愛しい妻のくちびるを啄ばんだ。


「……お()しくだされ」

志鶴は身を離して、きゅっ、と夫を睨んだ。

舅上(ちちうえ)様にあのような嘘をつかれるとは。旦那さまは親不孝が過ぎまする」

だが、その夫はまったく介することなく、妻を見つめて、にやにやと笑っている。

志鶴はますます腹が立ってきて、

「旦那さま、もうお部屋にお戻りくだされ。
殿方がおなごの部屋にいることですら、外聞の悪いことでござりまするに」

多聞を押しのけるようにして()き立てた。

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