大江戸ロミオ&ジュリエット

ひらり、と多聞がまるで馬に乗るかのように志鶴の上に跨った。

「……亭主が養生してる女房を看病してんだってのよ。なにが()りぃってんだ」

多聞は、(はな)っから隣で(やす)む心づもりなのだ。
その(あかし)に、志鶴の部屋にもかかわらず、箱枕が二つ支度されていた。多聞の分だ。

「町家の者ではござらぬゆえ、旦那さまがわたくしの部屋でお寝みになるのが、恥ずかしゅうござりまする。それに、わたくしは看病されるほどの病人ではありませぬ」

「おれがここで、おめぇと添い寝してぇんだ。
朝、髪結いが訪ねて来る前には戻っからよ。
……なぁ、志鶴、いいだろ」

多聞は、癇癪を起こす子どもを(なだ)めるかのごとく、志鶴のすべすべした頬を手の甲でやさしく撫でる。

……髪結い。

その刹那、志鶴の心に「あの方」の顔が()ぎった。

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