大江戸ロミオ&ジュリエット

ちっ、という舌打ちの音が聞こえてきたかと思うと。

いきなり、多聞が噛みつくように荒々しく、志鶴のくちびるを求めてきた。

志鶴は抗おうと思うて身を引き離そうとしたが、多聞に組み敷かれた(さま)では、どうにも手立てがなかった。

そのうち、頭の芯がぼんやりしてきた。

顔はもとより、身体(からだ)中が火照(ほて)ってきた。力が抜けて、両腕が夜具の上に、だらりと落ちた。

そして、今や志鶴の舌は、咥内の中に入ってきた多聞の舌で、為す(すべ)もなく思うままに弄ばれていた。

志鶴のくちびるからは、荒い息と共に(なま)めかしい声が漏れ出ていた。

男に聴かせるのは、初めてだった。


……もう、志鶴の心には「あの方」はいなかった。

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