大江戸ロミオ&ジュリエット
◆◇ 六段目 ◇◆
◇やつしの場◇
朝餉も、昼餉も、夕餉も。
食べきれぬほどのお菜が、志鶴の箱膳の上には並んでいた。
姑の富士の云いつけで、志鶴を「無き者」として扱うよう命じられてきた奉公人たちの、せめてもの「罪滅ぼし」であった。
だが、志鶴はありがたや、とは思いつつも、胃の腑が小そうなってしまったがゆえ、とてもとてもすべては食べられなかった。
にもかかわらず、心配する夫の多聞からは毎日「ちゃんと喰うたか」と訊かれる。
こればかりは少しずつ元に戻して行くほかあるまい。ゆえに、まだ志鶴の目方も体力も元どおりではなかった。
しかし、医師の竹内 玄丞からは、八丁堀の組屋敷から出て気晴らしをするためにも、自身で薬を取りに来るよう云われていた。
武家のおなごの外出には普通、中間(武家に仕える下男)が供につくものであるが、此度はずっと駕籠での往き帰りであるため、志鶴は下働きの女中おせいだけを連れて行こうと思った。
その日の朝、志鶴が請うと早速、其々の乗る駕籠が呼ばれた。