大江戸ロミオ&ジュリエット
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男が一人、仕舞屋(しもたや)の裏口から出てきた。

御納戸(おなんど)色の着流しの上に裾を捲って角帯に手挟(たばさ)んだ紋付の黒羽織、裏白の紺足袋(たび)雪駄(せった)履き。
腰には二本、水平に差された大小の刀。
左右の(びん)は町家の者のように膨らませず、すっきりと持ち上げられ、細い(まげ)は高く結われた本田髷。

「同心」の(なり)であったが、南町の奉行所では見たことのない顔だった。

岡っ引きと(しらみ)潰しに長屋が所狭しと立ち並ぶ裏店(うらだな)を巡っていて、たまたまその(さま)を見かけたのだ。

多聞は、去って行く男の姿を見届けてから、するりと仕舞屋の入り口にまわった。

ちょうどそのとき、戸口から女が出てくるところであった。

多聞は引き連れていた岡っ引きに目配せした。
二人はさっと、家と家の間に身を隠す。

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