大江戸ロミオ&ジュリエット

鶯茶(うぐいすちゃ)色の小袖に紅鼠(べにねず)色の打掛姿の、武家の女だった。しかも、丸(まげ)に結った髪に、剃り落とした眉、お歯黒をつけている。

「……なんと、人妻でさぁ。お武家さんがこんな真っ昼間から逢い引きったぁ、やるねぇ」

岡っ引きが声を殺して呟き、くくっ、と(わら)った。

武家の妻が姦通して夫に露見すると、夫は御公儀(江戸幕府)に届け出をすれば、妻とその相手の男を叩っ斬っても罪には問われない。
むしろ、叩っ斬らないと「恥」になるのだ。

だから、時には逃亡した妻と男を追って、諸国を放浪することもある。これを「妻敵討(めがたきうち)」という。

武家の女は左右を見回して、さっと駕籠(かご)へ乗り込んだ。

その顔を見て、多聞は目を見張った。

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