大江戸ロミオ&ジュリエット

「おせいちゃん、あんたも若旦那の噂、知ってんのかい」

噂を知らなかったおなごが訊く。

「あぁ、知ってっけどな。
……けどさぁ、あたいは信じちゃいねぇべ」

おせいはきっぱりと言い切った。

「だからよぅ、くれぐれも御新造(ごしんぞ)さんの耳に入んないようにさぁ、気を配っとくれよ」

三人は、こっくりと肯いた。
みんな『北町小町』の心を煩わせるのは本意ではなかった。

「おきくちゃん、おめぇは日も浅せぇから、特に気をつけとくれな」

「うん、わかってっよ」

おきくは、にこっと笑って承知した。
一人だけ噂を知らなかったおなごだった。


だが、しかし。

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