大江戸ロミオ&ジュリエット
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決して心を荒立てることのない志鶴が、めずらしく心を揺さぶられていた。

あの後、多聞とは一言も口をきいていない。

晩酌をしていた座敷を出て、志鶴の部屋に入ってからもだ。

「……おい、どしたんでぃ」

いつものように夜具の中で隣に横たわる志鶴に、多聞がやさしく訊く。
志鶴はずっと(せな)を向けていた。

「志鶴……こっち向けってぇの」

多聞はぐいっと、志鶴の身体(からだ)を反転させる。
なぜか、青白く強張った顔がそこにあった。

少しでもその顔色に赤みを取り戻させようと、
多聞は志鶴を引き寄せ、くちびるを重ねた。


「……お()しくだされ」

志鶴は身を離して、冷たい目で睨んだ。
声は真冬のように冷え切っていた。

そして、寝返りを打ち、多聞にまた背を向けた。

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