大江戸ロミオ&ジュリエット
……胸の奥が、ふつふつ、とする。
なんであろう、この心持ちは。
嫁入り支度で日本橋へ行った折、往来で堂々と口を吸い合う尚之介と「後家」とを見たとき。
志鶴は鼻の奥がつんとなるような「悲しい」思いはしたが、かような「ふつふつ」とした思いは抱かなかった。
それは、尚之介が「御役目」であったことを、薄々感づいていたからであろうか。
されども……敢えてあまり考えぬようにはしてきたが。
あの頃、尚之介はきっと「御役目」を果たすために、あの「後家」とは人には云えぬ仲にまでなっていたはずだ。
なぜなら、盗みの手の内も仲間もすべて、きれいさっぱり白状させたのだから。
相手の女は尚之介に、すっかり身も心も許していたに違いない。
にもかかわらず、志鶴の今の心持ちは……
子どもの頃からすぐそこを歩いていた人が……
いつの間にか、うんと先をすたすた歩く大人になってしまっていて……
我が身一人だけが子どものままで取り残されたかのような……
さような……言うなれば「寂しい」という心持ちは、しみじみと感ずるけれども。
……やはり「ふつふつ」とはしなかった。