大江戸ロミオ&ジュリエット
志鶴が物憂げにしていると、後ろから、ふわり、と包み込むかのごとく多聞に抱きしめられた。
「……おめぇ、今日の昼間、どっかへ出かけたか」
耳元で、多聞がささやくように訊く。
心なしか、声が硬かった。
「玄丞先生のところへ、お薬をもらいに参ってござりまする」
先達て、多聞が御役目そっちのけで志鶴のために動いていたと、舅の源兵衛から聞かされたとき、畏れ多くてすっかり肝を冷やしてしまった。
ゆえに、此度は多聞には知らせていなかった。
「おせいだけでなく、ちゃんと中間の供も連れて参ってござりまする。
……旦那さまは、御役目をしかと果たしてくださりませ」