大江戸ロミオ&ジュリエット
◆◇ 七段目 ◇◆
◇醜聞の場◇
ある日、厄介な人が松波の家を訪れた。
親同士が、幼い頃より多聞の許嫁と決めていた、千賀だ。
志鶴は顔には見せぬが、会いとうない相手であることは間違いない。
「千賀どの、せっかくお越しになったのに御無礼極まりまするが、生憎、本日は姑上様の御身体がすぐれず……」
千賀の訪いに、志鶴は当たり障りのない口上を述べる。
まさか、姑の富士が嫁である志鶴が理由で、血を分けた息子から蟄居謹慎を命ぜられているため本日は会えぬ、などとは口が裂けても云えぬ。
「あぁ、本日は伯母上を拝顔しにきたわけではござらぬ……案じ召されるな。我ら身内は仔細を存じておりまするがゆえ」
千賀はそう云って、ふふっ、と意味ありげに笑った。相変わらず、鳥居清長が描いた美人図から抜け出てきたかのような美しさだ。
「伯母上がおらぬ方が好都合。
……わたくしは、そなたに会いに参ったのでござりまする」
厭な予感しかしなかった。