大江戸ロミオ&ジュリエット
「では、話が早い。
……祝言を控える身になってもらいとうござってな」
つまり、身内の醜聞によってせっかくの良縁を潰されたくない、ということである。
一見、千賀が身勝手に思えるかもしれぬが、おなごにとって縁組は一世一代の大勝負だ。
一度でも縁が流れたら、武家では「縁起が悪い娘」との烙印が押される。
しかも、千賀はもう十八で、来年になるととたんに縁組の話が減るであろう。
「御身内の方々には御迷惑をおかけして、申し訳のう思ってござりまする」
志鶴は深々と頭を下げた。
「面を上げよ、志鶴どの。
……そなたに謝ってもらおうと思うて参ったわけではないわ」
千賀は語気を強めて云うた。
「悪いのは、そなたという妻女を娶ったというのに、未だに梅ノ香などという穢らわしき売女に現を抜かしておる、多聞さまではあるまいか」