大江戸ロミオ&ジュリエット
顔面蒼白になった志鶴を見て、
「よ…余計なことを申してしもうた。
志鶴どの、今の言葉は、お忘れくださりませ」
千賀は柄にもなく慌てて云った。
だが、しかし、志鶴は白くなった唇を開いた。
「……千賀どの……教えてくだされ」
そこには、静謐な中にも、有無も云わさぬ押しの強さがあった。
千賀はさような志鶴の姿に、ごくり、と唾を飲んだ。ゆえに、すっかり怖気付いてしまって、知っている限りのことを話す羽目となった。
梅ノ香とは、此度の火事で深川に仮宅を設けた廓「久喜萬字屋」の……女郎の名であった。