大江戸ロミオ&ジュリエット
◇往古の場◇
大川(隅田川)から猪牙舟に乗って、山谷堀からお歯黒どぶに入れば、周囲を高い塀で囲まれた吉原の廓への唯一の入り口、大門が見えてくる。
朱色に彩られた二本の柱に、黒い屋根を乗せた鏑木門だ。
柳が揺れる川岸に着き、舟から降りて向かう。
大門をくぐると、右手には女郎たちが逃亡せぬように見張る四郎兵衛会所、左手には同心や岡っ引きが詰める面番所がある。
面番所に詰めているのは隠密廻り同心だ。
与力が詰めることはない。
だが、十二歳で元服を終えて「見習い与力」になった多聞に父親の源兵衛は、与力の御役目だけでなく同心の御役目も「修行」させていた。
そのため、多聞は「面番所」にやってきた。
多聞はそのとき、十五歳であった。