大江戸ロミオ&ジュリエット
廓といえども昼間の「暮らし」はどこも一緒だ。
梅雨が明けた青空の下、物干しに掛けられた色とりどりの女郎たちの腰巻きが、時折吹く風にたなびいている。戸口には女郎たちが食す漬物の甕がいくつも見える。
女郎たちがしくじった末に産んだのか、子どもたちが鬼ごっこなどをして遊んでいる。
巷では「苦界」と呼ばれるこの地でも、昼間の裏手では「ありふれた」暮らしがなされていた。
女郎を買うような男はかような「夢の跡」など見とうもないだろうが、多聞は違った。
まさに、かようなことを多聞に知らしめるのが、父親の源兵衛の狙いだった。
町方役人は恵まれない境遇の者を扱うことが多い。
この地には、孔子先生の論語を素読するよりもずっと教えてくれることがある。