大江戸ロミオ&ジュリエット
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多聞はその日も、(たらい)いっぱいの汚れ物を片っ端から洗っている女の子を見かけた。

我が(よわい)より二、三歳は下であろう。
瘦せぎすで、特に手足が折れるように細い。

なのに、洗い終えた物が水を含んで重たくなった盥を、いきなり持ち上げようとするから、ひっくり返りそうになる。

多聞は(あわ)てて駆け寄って、盥を持ち上げてやった。

「……あ、お武家さま、きれぇな御召し物が濡れちまうだんべぇ。お()しなっせぇ」

女の子が(おそ)れをなして、あどけない目で多聞を見上げた。

着古した木綿の小袖姿は垢抜けないが、面立(おもだ)ちは悪くなかった。それに、(くるわ)の女郎たちが遣う気取った物云いではなかった。おそらく故郷(くに)方言(ことば)なのであろう。

多聞は思わず笑みを漏らした。

「気にしねぇでいいってことよ。どこへ持ってけばいいんでぇ」

「だけんどぉ……」

女の子は渋ったが、多聞は聞かない。
仕方なく指で示した物干し場まで、多聞が盥を運んだ。

かようなことがきっかけとなって、二人は会えば話すようになった。

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