大江戸ロミオ&ジュリエット
女の子の名はおさよといい、歳はなんと多聞と同じ十五だった。故郷は秩父だと云う。
おさよの母が、流行り病であっけなく死んじまったのが運の尽きだった。
父の酒量が増え、百姓仕事も滞り、果てには博打に手を出すようになった。
すると、見る見る間に負い目(借金)が膨れ上がり、とうとう亡き女房の忘れ形見である娘を女衒に売る羽目になってしまった。
田舎ではなかなかの器量良しと云われて育ったおさよは、吉原に連れられてきた。十二のときだった。
だが、おさよは歳より小柄で瘦せぎすのせいか、まだ初潮が来ていなかった。
月の障りが来ない、まだ女とは云えぬ「子ども」を見世には出せない。
そこで、見世を差配する内儀が、器量の悪くないおさよを「振袖新造」として売り出そうと考えた。