大江戸ロミオ&ジュリエット
◆◇ 大 序 ◇◆
◇北町奉行の場◇
北町奉行所で年番方与力を務める佐久間 彦左衛門は、北町奉行からの呼び出しを受けて、改まった面持ちで待っていた。
『御奉行の手が空くまで、執務をされておる座敷の外で待つように』と、奉行を側仕えする公用人である内与力から申し渡されていた。
江戸の治安を守る、と云えば聞こえはよいが、町奉行所の仕事は「なんでも屋」だ。
町の掟をつくり、その掟を破る不届き者は捕らえて、御白州で裁かねばならぬ。
また、火事に備えて、日頃は鳶の仕事をしている喧嘩っ早い火消しの者たちを、なだめすかして束ねればならぬ。
さらに、世間で景気が悪うなると鬱憤晴らしにすぐ米屋や両替商を襲って、米や金だけでなく建物までぶっ壊して、根太の一本も残さずかっぱらって行く「打ちこわし」を始めやがる、町の奴らの金回りにまで気を配らねばならぬ。
それらを限られた武家の人手で、担っているのである。
とりわけ「与力」という御役目は、
御仕えする「奉行」には、
『さようでござる。おっしゃるとおりでござりまするとも』と調子を合わせ、
御仕えされているはずの「同心」たちからは、
『此度のことは捨て置きできませぬ。御用は現場にて起こっておりまするっ』と突き上げられてしまう、
……板挟みの役回りである。