大江戸ロミオ&ジュリエット
◆◇ 三段目 ◇◆

◇祝言の場◇


結局、祝言の日まで互いの顔を見ることなく、その日はやってきた。

春の陽射しがうららかなこの日、すっかり花嫁支度が済んで、さぁ、いよいよ北町の組屋敷を出ようという段になって、帯刀(たてわき)が声をかけてきた。

「……志鶴(しづる)、よいのだな」

この期に及んで、もし、(いや)だと言うたら、この兄がなんとかしてくれるのであろうか。
少し意地の悪い思いが頭をかすめた。

しかし、志鶴は「はい」と短く、きっぱりと返した。

それでも、帯刀は「おまえがもし……」と言いかけた。だが、結局は口を(つぐ)んだ。

志鶴の澄み渡った目を見て、観念したのだ。


兄上、たとえ、わたくしがおなごであろうとも、

……武士に二言はありませぬ。

< 20 / 389 >

この作品をシェア

pagetop