大江戸ロミオ&ジュリエット
◆◇ 三段目 ◇◆
◇祝言の場◇
結局、祝言の日まで互いの顔を見ることなく、その日はやってきた。
春の陽射しがうららかなこの日、すっかり花嫁支度が済んで、さぁ、いよいよ北町の組屋敷を出ようという段になって、帯刀が声をかけてきた。
「……志鶴、よいのだな」
この期に及んで、もし、厭だと言うたら、この兄がなんとかしてくれるのであろうか。
少し意地の悪い思いが頭をかすめた。
しかし、志鶴は「はい」と短く、きっぱりと返した。
それでも、帯刀は「おまえがもし……」と言いかけた。だが、結局は口を噤んだ。
志鶴の澄み渡った目を見て、観念したのだ。
兄上、たとえ、わたくしがおなごであろうとも、
……武士に二言はありませぬ。