大江戸ロミオ&ジュリエット
「……あら、なんと『北町小町』とは、しぃちゃんのことであったか」
向こうも驚いている。
思いがけず、お互い見知った顔だった。
「御行儀見習」と称して、安芸広島新田藩の前藩主の奥方様が開いておられた手習所で、机を並べて励んでいた人だったのだ。
もっとも、志鶴より八つも歳上の寿々乃は、すでにお師匠である奥方様の「片腕」として、歳下の志鶴や初音の書いた文字に朱を入れる方であったが。
「寿々乃さまとは……すずちゃんでござったか」
志鶴はそう呟いて、ほうっ、と息を吐いた。