大江戸ロミオ&ジュリエット
南町奉行所の中にある、南町奉行の御屋敷の大広間と次ぎの間を使って、祝言は執り行われた。
上座にあたる大広間の奥の、向かって左側に花婿の松波 多聞、そして右側に花嫁の志鶴が座った。
そして、その両側を挟むようにして、多聞の横に南町奉行、志鶴の横に北町奉行が腰を下ろす。
大広間の左側には南町の与力たち、そして右側には北町の与力たちがずらりと並んだ。
さらに、下座になる大広間の手前の次ぎの間に、それぞれの妻たちが同じように膳を並べていた。
おもむろに、花婿の多聞が一同に対して平伏する。花嫁の志鶴もそれに倣う。
祝言のこの日まで、二人は一度も面通しせぬままであったので、すぐ隣にいるのに、お互い正面を向いているし、緊張のためか俯きがちになっているしで、どんな目鼻立ちをしているのかはまださっぱりわかっていなかった。
武家の縁組は「御家同士の結びつき」以外の何物でもない。
だから、好いた惚れたで夫婦になれる町家の者のようにはいかぬので、縁談相手の顔の造作によって一喜一憂するのは「大変無礼で、はしたなきこと」と口を酸っぱくして育てられている。