大江戸ロミオ&ジュリエット

吉原の廓の大見世には独特の云い回しがあって、「ありんす」はほとんど使われない。
語尾に付ける言葉が其々(それぞれ)の見世で異なった。

松葉屋は「おす」、扇屋は「だんす」、丁字屋は「ざんす」、中萬字屋は「まし」、そして久喜萬字屋が「なんし」である。

もちろん、客に「他とは違う特別な見世」と思い込ませて浮かれさせる狙いもある。

だが、さようなこととは別に、女郎が逃げ出した際に「廓言葉」でお(さと)を知れさせるのに役立つ。
たとえ、女郎が懇ろになった客と吉原の大門の外へ逃げ仰せたと思っても、ひとたび裏長屋の片隅で「廓言葉」を使えば、追っ手が血眼で飛んできた。

女郎たちは吉原に売られた際に、話す言葉までも売られていたのである。

< 226 / 389 >

この作品をシェア

pagetop