大江戸ロミオ&ジュリエット
梅ノ香は、つぶし島田の髪に、柳鼠の大小あられの小袖を身にまとっていた。化粧は薄く、髪に挿された簪なども小ぶりだった。
吉原の女郎というと、もっと下卑た派手な出で立ちとばかり思うておった志鶴には意外であった。
もっとも、此処へは「お忍び」で参っておるがゆえ、かような身支度になっているのかもしれぬが。
梅ノ香が顔を上げた。
志鶴は、我が夫がかつて自ら妻にと所望した目の前をおなごを、とくと見た。
なるほど、鈴木春信の浮世絵から飛び出てきたかのごとく、可憐で愛らしい風情を漂わせていた。
巷で飛ぶように売れている「清水の舞台より飛ぶ美人」などは梅ノ香そのものに見えた。
つまり、志鶴の面影と重なった。
いや……多聞にとっては、梅ノ香の面影に志鶴が重なったのだ。