大江戸ロミオ&ジュリエット
梅ノ香は、志鶴のまっすぐな視線に耐えられなかった。
目の前にいるのは、巷で「北町小町」ともてはやされる美人だ。噂に違わず美しい。
そして、我が身には一生身につかぬ、育ちの良さからの気品にあふれていた。
多聞と並ぶとさぞかしお似合いの夫婦であろう。
だから、思わず目を伏せてしまった。
だが、梅ノ香のその様は、却ってなんとも云えぬ色気を漂わせた。
さすが、男を惑わせる生業である。
「……奥方様は、松波さまよりわっちのこと、お聞きなんしかえ」
志鶴はなにも答えなかった。
下賤の者からの不躾な問いかけに応ずることはない。
ただ、その顔をじっと見続けた。
「わっちは、松波さまに身請など望まずとも、明けの年、十年の年季奉公がようやっと終わりになりなんし。それに、わっちのような者が、奥方様に取って代わろうなんて、これっぽっちも思うとらでなんし」
そして、意を決したかのように、梅ノ香は顔を上げた。