大江戸ロミオ&ジュリエット
梅ノ香が、びくり、と肩を揺らした。
まだ十八の志鶴に、手も足も出ぬほど威圧されていた。六つも上のはずなのに、梅ノ香は幼子のようにいたいけに見えた。
だが、男から見れば、思わず守ってやりとうなる姿であろう。
「浅はかにも、与力であらば妾の一人や二人、赦されるとでも思うておるのであろう。
わらわの生家も同じく与力の御家であるが……所詮、町方役人に過ぎぬ。さように得手勝手できるほど偉うはないわ」
梅ノ香をしかと見据えて、志鶴は冷たく告げた。
「そもそも、与力の御役目は代々続くものではないのじゃ。ゆえに、虎視眈々とその御役目を狙う者から、松波がいつ足元を掬われてもおかしゅうはない。現に、松波とおまえとのことは町家で噂になっておる。
……もし、御奉行様の御耳に入らば、松波の御役目に障りが出るやもしれぬことがわからぬのか」
梅ノ香は唇を噛み締めていた。
奥方様はわざわざそれを云いに来たのだ、と悟った。