大江戸ロミオ&ジュリエット

梅ノ香が、びくり、と肩を揺らした。

まだ十八の志鶴に、手も足も出ぬほど威圧されていた。六つも上のはずなのに、梅ノ香は幼子のようにいたいけに見えた。

だが、男から見れば、思わず守ってやりとうなる姿であろう。

「浅はかにも、与力であらば(めかけ)の一人や二人、(ゆる)されるとでも思うておるのであろう。
わらわの生家も同じく与力の御家(おいえ)であるが……所詮、町方役人に過ぎぬ。さように得手勝手できるほど(えろ)うはないわ」

梅ノ香をしかと見据えて、志鶴は冷たく告げた。

「そもそも、与力の御役目は代々続くものではないのじゃ。ゆえに、虎視眈々とその御役目を狙う者から、松波がいつ足元を(すく)われてもおかしゅうはない。現に、松波とおまえとのことは町家で噂になっておる。
……もし、御奉行様の御耳に入らば、松波の御役目に障りが出るやもしれぬことがわからぬのか」

梅ノ香は唇を噛み締めていた。

奥方様はわざわざそれを云いに来たのだ、と悟った。

< 232 / 389 >

この作品をシェア

pagetop