大江戸ロミオ&ジュリエット
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志鶴は料理茶屋を出た。

駕籠(かご)の脇で島村 尚之介が待っていた。

「……大儀でござった」

志鶴の真っ青な顔を見て、尚之介はねぎらった。
唇までもが血の気を失せて白うなっていた。

「尚之介さま……此度(こたび)はほんに御足労をおかけ申した。切に、ありがたく存じておりまする」

志鶴は弱々しく微笑んだ。

梅ノ香といた座敷を出たとたん、張っていた気がすっかり抜けてしまった。

先刻(さっき)までの「武家の(おなご)」の威厳は欠片(かけら)もない。

いや、我が身にあないな面があるとは、おのれ自身でも初めて知った。

もしかすると、夜叉のごとき顔になっていたかもしれぬ。

……ずいぶんと、(いや)なおなごでござったな。

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