大江戸ロミオ&ジュリエット
◇逢瀬の場◇
「な…な、なんだってぇっ」
舅の源兵衛が、まさに鳩に豆鉄砲を喰らった顔をしていた。
「一体全体、どしたってんだ。藪から棒によ。
……富士の奴ぁ、まだ部屋に押し込めてるぜ。まさか、あいつ、まだおめぇに厭がらせしてやがんのか」
姑の富士の蟄居謹慎は、かれこれ二月を超えた。
「ち…違いまするっ」
志鶴は慌てて否定した。
「わたくしが実家に帰りますれば、姑上様をお解き放しくださりませ。此度のことはすべて、わたくしの我が儘にてござりまする。
……どうか、お赦しくださりませ」
畳に額がつくまで、頭を下げた。
「おっ母さんは、きっかり半年、このままだ」
多聞が志鶴を見て、きっぱりと告げた。
取りつく島もなかった。
「半年」は、多聞が梅ノ香の件で蟄居を命じられたのと同じ期間だった。
「んなことより……志鶴の実家のおっ母さんの具合がよくねぇそうだ」
多聞が源兵衛の方を向いて云った。
「だから、しばらく帰ぇりてぇんだとよ」
多聞にさようなことを云うた覚えはない。
志鶴はもうこの家に戻る気はなかった。
多聞との離縁を覚悟の上での申し出であった。