大江戸ロミオ&ジュリエット
「せっかく上野に来たからと思って通ってみたけどよ……おめぇは、危なっかし過ぎんのよ」
そう云って、多聞は志鶴の手を掴んだまま、人の流れに乗ってずんずん歩き始めた。
……天下の往来で、夫と手をつないで歩くとは。
この人混みではだれも気にする者はおらぬのに、志鶴は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
さようでなくても、夏の江戸は暑い。
炎天下では汗が額から吹き出す。
喉がからからに乾いて、せめて水茶屋にでも入ってくれたら、と思った。
「……もうちっとの辛抱だからよ」
手を引く多聞が、振り返ってやさしく微笑んだ。
手を引かれた志鶴も、ふっくらと微笑み返して肯いた。