大江戸ロミオ&ジュリエット
◇別離の場◇
志鶴が実家の佐久間の家に戻って、二月ほどが経った。
松波の家から戻った日、あまりにも痩せ細っていた志鶴を見るなり、母親の志代は甲高い悲鳴を上げたかと思うと、畳に突っ伏して号泣した。
「母の具合が悪い」という口実が、本当になりそうな憔悴ぶりだった。
「……『三年辛抱しろ』と云われてござったのに、半年も持たず、申し訳ありませぬ」
家族の前で平伏する志鶴に、
「いや……元より無理な相談でござった。志鶴、大儀であった」
父親の佐久間 彦左衛門は娘に労いの言葉をかけた。
兄の佐久間 帯刀は、ただ不憫な目をして妹を見つめていた。