大江戸ロミオ&ジュリエット
「……ずいぶん、調子が良うなってきてござるな」
尚之介が安心したように、口元を綻ばせた。
「尚之介さまにも、ご心配をおかけして、申し訳ありませぬ」
志鶴は縫い物の手を止めて、一礼した。実家に戻ってきてからは、流石に少しずつ目方が増えてきていた。
「おっ、そいつはおれの綿入れか」
兄の帯刀が目ざとく見つけて訊いてくる。
志鶴は、来たる冬に備えて綿入れの着物を縫っていた。男物である。
ふふふ…と、志鶴は曖昧に笑った。
兄のものではなかった。実は、すでに今の時節に合う秋物の袷も縫い上げていた。