大江戸ロミオ&ジュリエット
あの日……最後の日にしてようやっと肌を合わせて、身体をつなげ、夫婦になれた、あの日。
これで……あの「沸々」とした思いから解き放たれた、と志鶴は思った。
多聞にとっては我が身が「形ばかりの妻」であるのが辛くなって、松波の家を出た。
佐久間の家に戻れば、また祝言の前の娘の頃ような心持ちで過ごせるはずだ、と思っていた。
だが……違った。
志鶴が去ったあと、多聞が気兼ねなく「深川」に足繁く通っておるのだと思うと、「沸々」は情け容赦なくやってきた。
かような気を鎮めるために、志鶴はひたすら縫い物をしていた。無心で一針一針、針を運んでおると、ようやく心が落ち着いた。