大江戸ロミオ&ジュリエット
彦左衛門はその与力の中でも「年番方」という御役目を与えられていた。
巷で厄介ごとが起こった際に、現場に駆けつけ御役目を果たすのが「同心」で、奉行所内で一番数が多い。
その同心たちを組に分けて束ねるのが、数ある与力の御役目の中でも「同心支配役」と呼ばれる「筆頭与力」である。同心には許されていない、江戸市中での騎馬が許されている。
さらに、その「筆頭与力」から選ばれたのが「年番方与力」である。
ゆえに、奉行所全体に目を配って取り計らう総元締めのようなものだ。
「奉行」といえども、実務に長けたお人ばかりではない。そういうときは、年番方が陰で采配を振るわなくてはならなくなる。
実際、その奉行所が滞りなく御役目を果たせるか否かは、年番方の力量によるものが大きいと云われている。
だから、年番方に任じられるのは、古参で人望のある者と相場が決まっていた。
また、江戸に置かれた町奉行所には「北町奉行所」と「南町奉行所」が設けられていて、「月番」といって月替りで交互に御役目にあたることになっている。
これは、奉行所が一つきりだと、どうしても偏りが生じたり、手心を加えてもらいたい輩からの付け届けが横行したりするなどして、御役目が歪められてしまう恐れがあるためである。
ところが、二つになったことで差し障りが出た。
本来は、互いに手を携えてことにあたらねばならぬというのに、いつの間にかどちらが手柄を収めるかで、競い合うようになってしまったのだ。
つい先達ても、北町と南町の若い同心見習いたちが小競り合いを起こしたばかりだ。
……本日呼ばれたのは、そのことやもしれぬ。