大江戸ロミオ&ジュリエット

そのあとが大儀であった。

花婿側、次に花嫁側と、交互に祝辞を述べていくのであるが、必ず前の者より話が長くなり、(しま)いには一人でたっぷり四半(とき)(約三十分)にも及ぶようになった。

さらに、今日の()き日を寿(ことほ)ぐための「高砂(たかさご)」の謡を、人生で一度きりのはずの祝言で「繰り返す」のは御法度のはずだが、双方の喉自慢が続々と登場して、しかも延々と同じ(ふし)を吟じ続け、もはや「絶対に負けられぬ合戦(かっせん)」と化していた。

だがその宴は、

「もうよいであろう。『これにて、一件落着』と参ろうか」
御意(ぎょい)でござる。『異議なし』」

と上機嫌で顔を見合わせた、互いの奉行の言葉で終わった。

というか、大上段からばっさり叩っ斬られた。

とても祝言とは思えぬ殺伐とした双方を、目の前で見ていたとは到底考えられぬほど、脳天気で無神経な「御白州(おしらす)裁き」である。

「北町」「南町」問わず、唖然としたのは云うまでもない。

にもかかわらず、上座に並んで鎮座する花婿の多聞と花嫁の志鶴は、一切動じることなく、粛々とその任をやりおおせた。

< 30 / 389 >

この作品をシェア

pagetop