大江戸ロミオ&ジュリエット
「……淡路屋の主さんに、手紙でわっちの真心をお伝えしなんし」
梅ノ香は穏やかに微笑んだ。
ようやく、淡路屋の女房になる決心がついたようだ。
「されど……今さら大門の外へ出ても……
ずっとお廓言葉で過ごしなんしたから、すっかりお故郷言葉を忘れてしもうてなんし」
あんなに秩父のお故郷訛りが抜けなかったのが嘘みたいに、今の梅ノ香はすっかり吉原の廓言葉に馴染んでいた。
「今度ぁ、商家のお内儀の言葉を覚えりゃいいってことよ」
多聞は、にやり、と笑った。
いつもの「浮世絵与力」の不敵な笑みだった。
……だが、梅ノ香が「おさよ」だった時分には、見たことのない笑顔であった。