大江戸ロミオ&ジュリエット
多聞と源兵衛の目が、これでもか、というほど見開かれる。
しかし、それもつかの間で、次第に口元が緩みだし、うれしさが込み上げてきた。
「志鶴に……子が……」
多聞が思わず呟いた。
男であらば、松波の家にとっては「跡取り」だ。
……いや、たとえ、おなごであったとしても、婿をとって跡を継がせる。
この刹那に、親子共々さようなことまで思いを馳せた。顔は似ておらぬが、やはり親子である。
かような能天気な親子とは裏腹に、彦左衛門の顔が一段と険しくなっていった。
「……にもかかわらず」