大江戸ロミオ&ジュリエット

多聞と源兵衛の目が、これでもか、というほど見開かれる。

しかし、それもつかの間で、次第に口元が緩みだし、うれしさが込み上げてきた。

「志鶴に……子が……」

多聞が思わず呟いた。

(おのこ)であらば、松波の家にとっては「跡取り」だ。

……いや、たとえ、おなごであったとしても、婿をとって跡を継がせる。

この刹那に、親子共々(ともども)さようなことまで思いを馳せた。顔は似ておらぬが、やはり親子である。

かような能天気な親子とは裏腹に、彦左衛門の顔が一段と険しくなっていった。

「……にもかかわらず」

< 345 / 389 >

この作品をシェア

pagetop