大江戸ロミオ&ジュリエット
奉公人の案内で多聞の部屋の前まで来た。
実家と同じく三百坪はある御屋敷だ。
初めての本日は、案内人がいなくてはたどり着けぬであろう。
奉公人がすっ、と下がる。
志鶴は明障子の前で正座した。
「……志鶴にてござりまする」
声が震えぬよう、腹に力を入れて申す。
「入れ」
凛とした声が返ってきた。
志鶴は一度息を吸って、背筋を伸ばしてから、明障子をすーっと開けた。
「旦那さま……お初に御目にかかりまする。
志鶴にてござりまする」
夫となった多聞に平伏する。
本日、晴れて夫婦になった二人であるが、初めて顔を合わして口をきいたのだから、志鶴はかような口上になる。
「面を上げよ」
多聞から云われ、志鶴はすっと顔を上げた。
初めて、目と目が合う。
多聞にぐっ、と見つめられる。
ぎらり、とその眼が鋭い光を放った。
ものすごい目力であった。