大江戸ロミオ&ジュリエット
「こんなことならよ、毎晩一緒に寝てるくせに、
後生大事にとっておくんじゃなかったぜ。
まぁ、一度おめぇを知っちまえば、歯止めがかからねぇようになるのは目に見えてたけどよ」
多聞は舌打ちをした。
「細っこいおめぇを毎晩だなんて、ぶっ壊しそうで怖かったから、おめぇが実家に帰ぇるってのを止めなかったけどな……かように早う目方が戻るんなら、もっと早く実家に帰ぇした方がよかったかもな……されどもなぁ、あの神出鬼没の同心がうろちょろしていやがったしなぁ」
多聞は気難しい面持ちで逡巡していた。
志鶴は何の話か皆目わからず、首を傾げた。
「……まぁ、今となっちゃぁ、後の祭りだ。
これから先のことを考えようぜ」
気を取り直した多聞が、明るく云った。
「おめぇの腹がどんくらいになりゃぁ、またおめぇを抱けるのか、玄丞先生に聞いてみるか」
志鶴はようやく話が見えたが、その代わり、ぎょっとする羽目となった。
「ま…まさか、この子が腹の中におるというのに、いかがわしいことをする気では……」
「なぁにが『いかがわしいこと』ってんだ。
おめぇだって、生娘だったから初めは流石にかわいそうなくれぇ痛がってたが、そのうちいつの間にか痛みも吹っ飛んで、えらく気持ちよさそうにして、おれのされるがままになってたじゃねぇかよ」
「な…なんということをっ」
志鶴の顔が一瞬にして、蛸の桜煮のように真っ赤に染まった。
「おめぇ、まさか、子が生まれるまでおれに我慢させる気じゃねぇだろな。そりゃぁ、一回こっきりだったとは云わねぇがよ。
……おれたちゃぁ、まだたったの一日しかしてねぇんだぜ」
もちろん子ができたことはうれしいが、それとこれとは話が別だ。
「あ、もう突き飛ばすなよ。ありゃぁ、男の沽券に関わるってのよ」
志鶴が月の障りなのに恥ずかしくて云えず、思い余ってやってしまったことを、揶揄っているのである。