大江戸ロミオ&ジュリエット
「おまえは同心にかように申したな、志鶴。
『我が生涯に、我が夫はただ一人。この腹の子の父親……松波 多聞だけにてござりまする』と」
志鶴は多聞の腕の中で、こくり、と肯いた。
「志鶴、覚えておけ。
一生涯、いや、あの世はおろか、生まれ変わっても、おまえはわしの妻だ。
たとえ相手がどこの大名であろうと、たとえ公方様であろうと、たとえ京の天子様であろうと、
……志鶴も生まれてくる子も、絶対に渡すまい」
多聞にぐっ、と見つめられる。
ぎらり、とその目が鋭い光を放った。ものすごい目力であった。
「ゆえに志鶴、もう二度と『離縁する』などとは申すな……よいな」
志鶴は再び、こくり、と肯いた。
多聞が、にやりと笑っていた。
いつもの「浮世絵与力」の不敵な笑みだった。
あれよあれよという間に……
志鶴の身も心もかっ攫っていった……
……あの愛しい笑顔だ。