大江戸ロミオ&ジュリエット
我が寝間に戻った志鶴は、夜着に潜り込みながら、長かった今日一日を思い起こした。
我が身のためだけの夜着は、夫婦で使うのとは大きく異なり、あっさりした文様の綿入れ打掛であった。
武家に生まれたからには、幼き頃より御家のための縁組になるのは覚悟していた。
確かに、客も多く膳も華やかで、南北の町奉行所の年番方与力の御家の祝言として、盛大なものであった。
だが。
……あまりにも「情」からかけ離れたそらぞらしい祝言であった。
志鶴は一人になったこのとき、ようやく堪えていたやり切れなさがこみ上げてきた。
「……御奉行様たち以外だれ一人、この縁組を
目出度いとは思うておらなんだなぁ」
志鶴は暗闇の中で、ぽつり、と呟いた。