大江戸ロミオ&ジュリエット
「あのう……旦那さまのお世話は如何ようにすれば……」
志鶴がおずおずと申すと、
「そなた……まさか、朝から多聞の前に姿を現すつもりではあるまいな」
富士が、さも穢らわしいものを見る目をする。
「朝から『北町』の者なぞを見て、御役目に出るなどとは縁起でもないわ。多聞の御役目に障りが出るやもしれぬ」
……わたくしは多聞さまの「妻」にてござりまするが。
「そなたなぞは、多聞の見送りも出迎えもせんでよい。それにもう、髪結いが参って支度をしておるゆえ、今さらそなたが参っても邪魔になるだけじゃ」
取りつく島もない、とはかようなことであった。